クリニックの開業候補地を検討する際、人口や競合数などのデータだけでは判断できないことがあります。道路から物件へ入りやすいか、患者から看板が見えるか、時間帯によって周辺道路が混雑しないかなど、実際に現地へ行かなければ分からない情報も少なくありません。
本記事では、クリニック開業前の現地視察で確認しておきたいポイントや、視察前の準備、候補地を比較する方法について解説します。
開業候補地が絞れてきたら、物件契約前に現地視察を行うことをおすすめします。
診療圏調査では、地域人口や年齢構成、競合医療機関、将来人口などをデータから分析できます。しかし、以下のような情報は数字や地図だけでは把握しにくいものです。
診療圏調査で候補地域を絞り、現地視察で「実際に患者が通える場所か」を確認するという流れで判断すると良いでしょう。
現地視察では、できれば複数の候補物件を比較しましょう。
1件だけを見ると、「駅に近い」「駐車場が広い」といった特徴を良く感じても、その条件が地域内で優れているのか判断しにくくなります。
同じ診療圏内で2~3件程度を比較すれば、家賃、駐車場、視認性、交通量、競合との位置関係などの違いが見えやすくなります。
現地へ行ってから周辺を闇雲に見るのではなく、あらかじめ診療圏の基本情報を整理しておきましょう。
例えば日本医師会の「地域医療情報システム(JMAP)」では、地域ごとの人口構成や医療機関、診療科別の施設などを確認できます。
山口県についても、岩国・柳井・周南・山口・防府・宇部・小野田・下関・長門・萩などの地域情報を確認できるため、候補地域の医療資源を把握したうえで現地を見ると視察の精度を高めやすくなります。
参照元:地域医療情報システム(日本医師会)(https://www.jmap.jp/)
視察では確認したい項目が多いため、事前にチェックリストを作成しておくと漏れを防げます。
| 分類 | 確認項目 |
|---|---|
| 交通 | 交通量、渋滞、道路からの入りやすさ |
| 駐車場 | 台数、区画幅、出入口、乗降スペース |
| 視認性 | 道路から物件・看板が見えるか |
| 患者動線 | 住宅地、駅、スーパー等との位置関係 |
| 競合 | 競合医院の所在地、診療内容、駐車場等 |
| 物件 | 広さ、動線、設備搬入、バリアフリー対応 |
| 周辺環境 | 騒音、臭気、治安、周辺施設 |
| 災害 | 洪水、土砂災害、高潮等のリスク |
最初に確認したいのが、候補地周辺の患者動線です。
診療圏内に十分な人口がいても、住民が日常的に候補物件の前を通らなければ、クリニックを認知してもらいにくい可能性があります。
現地では、以下のような施設との位置関係を確認しましょう。
例えば郊外型のクリニックであれば、駅からの距離よりも住宅地からスーパーへ向かう生活道路沿いにあるかといった視点のほうが重要になる場合があります。
地方では、自家用車で通院する患者が多い地域があります。そのため、地図上で道路に面していることを確認するだけでは不十分です。
実際に車を運転し、以下を確認しましょう。
特に高齢患者が多い診療科では、医師自身が問題なく運転できるかではなく、高齢者でも安全に出入りできるかという視点で確認することが大切です。
駐車場については、単純な台数だけで判断しないようにしましょう。
十分な台数があっても、区画が狭い、駐車場内で切り返しにくい、入口と出口が同じで混雑しやすいといった問題がある場合があります。
現地では以下を確認します。
整形外科、神経内科、内科など高齢患者の利用を想定する場合は、駐車してから院内へ入るまでの負担まで確認しておきましょう。
候補物件の前を多くの人が通っていても、建物や看板が見えなければクリニックの存在に気付いてもらいにくくなります。
現地では、徒歩だけでなく車に乗った状態から候補物件を確認します。
例えば以下のような問題がないか確認しましょう。
「看板を付ければ見えるはず」と考えず、患者が通る速度・方向から実際に確認することが重要です。
現地視察では候補物件だけでなく、診療圏内の競合クリニックの位置も確認しましょう。
Webサイトなどから診療内容を確認したうえで、現地では以下のような外から確認できる情報を見ます。
競合と同じ道路沿いでも、自院のほうが住宅地から近いなど異なる患者動線を確保できる場合があります。
一方、競合が地域の主要交差点や大型商業施設の近くにあり、患者動線を強く押さえている場合は、単純な距離以上の競争力を持っている可能性があります。
現地視察は1回だけで終わらせず、できれば時間帯を変えて確認しましょう。
例えば平日の午前中は高齢者が多く、夕方になると通勤・通学によって道路が混雑するなど、同じ場所でも状況が変わります。
| 視察する時間 | 確認しやすい内容 |
|---|---|
| 平日午前 | 高齢者の動線、午前診療時間帯の交通 |
| 平日昼 | 周辺勤務者、昼間人口の動き |
| 平日夕方 | 通勤・通学、道路渋滞 |
| 休日 | 商業施設への人流、平日との違い |
国勢調査では常住人口だけでなく、従業地・通学地をもとにした昼間人口も確認できます。統計上の昼夜間人口と、現地で実際に見える人の動きを照らし合わせるのも一つの方法です。
参照元:政府統計の総合窓口(e-Stat)|国勢調査 常住地又は従業地・通学地別人口(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?statdisp_id=0003454498)
候補物件の内部を確認できる場合は、単純な面積だけではなく、実際のクリニックを想定して歩いてみましょう。
主に確認したいのは以下です。
診療科によって必要な動線も異なります。例えば感染症患者を診る内科であれば待合・診察動線の分離、婦人科であればプライバシー、整形外科であればリハビリスペースなどを確認する必要があります。
現在の空間に診察室を何室作れるかだけではなく、開院後の患者の流れを想像して確認することが重要です。
候補物件そのものに問題がなくても、周辺環境によって患者の通いやすさが変わることがあります。
例えば、近隣工場からの騒音・臭気、夜間の周辺環境、坂道、歩道の有無などは現地へ行かなければ分かりにくいポイントです。
また、物件契約前には災害リスクも確認しましょう。
国土交通省・国土地理院のハザードマップポータルサイトでは、洪水、土砂災害、高潮、津波などの災害リスク情報を地図上で確認できます。
特にMRI・CTなど高額な医療機器を設置する場合や、地域医療を長期的に担う場合は、浸水や道路寸断によって診療継続へ影響する可能性も含めて評価すると良いでしょう。
参照元:国土交通省・国土地理院|ハザードマップポータルサイト(https://disaportal.gsi.go.jp/)
患者にとって便利な立地でも、看護師や医療事務などのスタッフが通勤しにくければ、人材採用に影響する可能性があります。
地方では自家用車で通勤するスタッフも多いため、以下を確認しましょう。
患者用駐車場を十分確保できても、スタッフの車を同じ場所へ停めることで患者用スペースが不足することもあります。
患者用とスタッフ用を分けて必要台数を考えることが大切です。
クリニックでは対応できない検査や入院、手術などが必要になった場合、地域の病院へ患者を紹介します。
地図上では近く見えても、渋滞や道路状況によって移動に時間がかかる場合があります。
特に脳神経外科、神経内科、循環器内科など緊急性の高い疾患を診察する可能性がある診療科では、主要な紹介先まで実際に車で移動し、所要時間や道路状況を確認しておくと良いでしょう。
日本医師会のJMAPでは、地域内の病院・診療所など医療資源を確認できます。事前に候補となる連携先を整理してから現地を回りましょう。
参照元:地域医療情報システム(日本医師会)(https://www.jmap.jp/)
複数の候補物件を1日で回ると、後から「どの物件の駐車場だったか」「道路からどう見えていたか」が分からなくなる場合があります。
許可されている範囲で、以下のような写真を残しておくと比較しやすくなります。
車で物件へ近づく様子について、同乗者に動画を撮影してもらえば、後から患者目線で看板や入口がどのタイミングで見えるかを確認することもできます。
現地視察を終えた後は、「なんとなく雰囲気が良かった」という感覚だけで物件を決めないようにしましょう。
あらかじめ評価項目を決め、候補物件を同じ基準で比較します。
| 評価項目 | 候補A | 候補B | 候補C |
|---|---|---|---|
| 診療圏人口 | ○ | ◎ | △ |
| 競合状況 | ◎ | △ | ○ |
| 駐車場 | ○ | ◎ | △ |
| 視認性 | ◎ | ○ | ○ |
| 患者動線 | ○ | ◎ | △ |
| 病院連携 | ◎ | ○ | ○ |
| 災害リスク | ○ | ○ | △ |
実際には○・△だけでなく、「駐車場10台」「右折進入しにくい」など具体的なメモを残しておくと判断しやすくなります。
特に、診療圏調査の結果と現地視察の評価が一致しているかを確認しましょう。
山口県でクリニック開業を検討する場合、県内全体を一括りにせず、医療圏・市町ごとの特徴を確認することが大切です。
日本医師会のJMAPでは、山口県内の二次医療圏や市町村ごとに人口構成、医療機関などを確認できます。
まずデータから候補地域を絞り込み、その後現地へ足を運び、幹線道路・住宅地・商業施設・基幹病院などとの位置関係を実際に確認すると効率的です。
また、山口県内でも都市部と郊外では患者の移動方法が異なります。駅周辺だけでなく、車での生活動線を意識しながら視察しましょう。
参照元:地域医療情報システム(日本医師会)|山口県(https://www.jmap.jp/cities/detail/pref/35)
クリニック開業前の現地視察では、物件の広さや家賃だけを見るのではなく、患者が自宅からクリニックへ来院し、駐車し、院内へ入り、診療を受けるまでの流れを想像することが重要です。
診療圏調査によって人口や競合を分析できても、道路からの入りやすさや視認性、駐車場の使いやすさ、周辺の雰囲気などは、実際に現地へ行かなければ分からないことがあります。
「医師にとって良い物件か」ではなく「患者が繰り返し通院しやすい物件か」という視点で確認しましょう。
候補地が複数ある場合は、同じチェックリストを使用して複数回視察し、診療圏調査の結果と現地で得た情報を組み合わせて最終的な開業地を判断することが大切です。
当メディアでは、診療科目ごとに山口県でおすすめのクリニック開業支援会社を紹介しています。企業選びの参考情報としてご活用ください。
