地方へ移住してクリニックを開業する場合、通常の開業準備に加えて、住居探しや引っ越し、家族の生活環境の整備なども同時に進める必要があります。準備の順番を誤ると、開院予定日に行政手続きが間に合わない、補助制度の対象から外れてしまう、移住後の生活環境が整わないといった問題につながりかねません。
本記事では、地方移住とクリニック開業を並行して進める場合のスケジュールについて、開院から逆算しながら解説します。
※以下の期間は一般的なクリニック開業を想定した目安です。診療科、物件、融資、建築・内装工事、医療機器、行政手続きなどによって必要な期間は異なります。
地方移住を伴うクリニック開業では、開院の1年~1年半ほど前から準備を始めると、開業と移住を並行して進めやすくなります。
| 時期の目安 | クリニック開業の準備 | 地方移住の準備 |
|---|---|---|
| 12~18カ月前 | 開業目的・診療コンセプトの整理 | 移住条件・家族の希望を整理 |
| 9~12カ月前 | 候補地域の調査・診療圏調査 | 候補地域への訪問・生活環境確認 |
| 6~9カ月前 | 事業計画・資金調達・物件選定 | 住居・学校・仕事などを具体化 |
| 3~6カ月前 | 設計・工事・医療機器・採用 | 住居契約・引っ越し準備 |
| 1~3カ月前 | 行政手続き・スタッフ研修・開院告知 | 転居・生活基盤の整備 |
| 開院前後 | 内覧会・診療開始・運営改善 | 地域での生活を安定させる |
戸建てで新築する場合や、MRI・CT、透析設備など大規模な設備を導入する診療科では、さらに準備期間が必要になる可能性があります。開院希望日を先に決め、必要な工程を逆算してスケジュールを作成しましょう。
最初の段階では、すぐに物件を探すのではなく、「なぜ地方へ移住して開業するのか」「どのようなクリニックをつくりたいのか」を整理します。
開業については、以下のような内容を決めていきます。
同時に、移住についても家族を含めて条件を整理しておきましょう。
地方移住を伴う場合は、「医院として成立する場所」と「家族が生活できる場所」の両方を満たす必要があります。開業条件だけで先に地域を決めないことが重要です。
開業コンセプトが固まったら、複数の候補地域を比較します。
クリニック開業の観点では、人口や年齢構成、競合クリニック、将来人口、交通環境などをもとに診療圏調査を行い、開院後に必要な患者数を確保できるか検討します。
地方移住の観点では、実際に現地を訪れて以下のような環境を確認しましょう。
観光で訪れただけでは日常生活の実態が分かりにくいため、可能であれば平日に滞在し、通勤・通学時間帯の生活環境まで確認すると良いでしょう。
山口県では、県へのUJIターンを「YY!ターン」として推進しており、県外在住者向けに移住相談や関連情報を提供しています。地方移住を検討する段階では、こうした行政の相談窓口も情報収集に活用できます。
参照元:山口県公式HP|UJIターン・UJIターンの推進の取組(https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/30/14160.html)
候補地が絞れたら、診療圏調査をもとに開業後の収支を具体化します。
事業計画では、少なくとも以下の費用を見積もっておきましょう。
売上については、診療圏調査から算出した患者数だけに頼らず、患者数が想定より少なかったケースを含めて複数パターンの収支を試算します。
地方でのクリニック開業では、地域によって施設や設備の整備に対する支援制度を利用できる場合があります。
例えば山口県では、重点医師偏在対策支援区域で診療所を承継・開業する場合に、施設整備・設備整備・地域への定着を支援する事業を実施しています。
ただし、2026年度の同事業では、施設・設備整備について県からの内示以降に工事等の契約を締結したものが補助対象とされています。
先に物件工事や医療機器の契約を済ませてしまうと支援対象外になる可能性があるため、補助制度を利用する予定がある場合は、「申請→内示・交付決定→契約」という順番を事前に確認してください。
参照元:山口県公式HP|重点医師偏在対策支援区域における診療所の承継・開業支援事業の実施について(https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/45/312220.html)
資金調達や物件の条件が整ったら、クリニックの設計・内装工事を進めます。
この時期には、以下の準備も並行して進めます。
地方では看護師や医療事務などの採用に時間がかかる可能性があります。開院直前まで求人を後回しにすると、必要な人員を確保できないことも考えられるため、必要なスタッフ数から逆算して早めに求人を開始しましょう。
クリニックの工事と並行し、院長や家族の住居も具体的に決めます。
特に子どもの転校・転園や配偶者の転職を伴う場合は、開院日だけを基準に引っ越し時期を決めることが難しい場合があります。
クリニック用と家庭用の2つのスケジュールを作り、相互に影響する日程を確認しておくと良いでしょう。
クリニックを開院するためには、医療法に基づく手続きや、保険診療を行う場合の保険医療機関指定申請などが必要です。
山口県では、診療所の開設に関する書類の提出先は、原則として所管する健康福祉センターまたは下関市立下関保健所となっています。開設形態によって必要となる申請・届出が異なるため、工事完成後に初めて確認するのではなく、設計段階から所管窓口へ相談しておくと良いでしょう。
参照元:山口県公式HP|申請書等ダウンロード様式一覧(https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/46/18926.html)
公的医療保険を使った診療を行うためには、地方厚生(支)局長から保険医療機関の指定を受ける必要があります。
中国四国厚生局では、保険医療機関の指定は申請者の希望がない限り原則として毎月1日付けで行われ、申請締切日は所在地を管轄する事務所へ確認するよう案内されています。
例えば「4月1日に保険診療を開始したい」と考えていても、必要な申請期限を過ぎれば予定していた日に指定を受けられない可能性があります。開院日を決めた段階で、所管する厚生局事務所へ最新の締切日を確認しましょう。
参照元:厚生労働省 中国四国厚生局|保険医療機関・保険薬局の指定申請手続きの流れ(https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/chugokushikoku/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/shitei_shinsei.html)
可能であれば、開院直前まで以前の居住地で生活するのではなく、開院より少し前に移住を完了させておくと準備を進めやすくなります。
開院直前は以下のような作業が集中します。
この時期に引っ越しまで重なると、院長本人だけでなく家族にも大きな負担となります。移住日は開院日から逆算し、開院準備に集中できる期間を確保しておきましょう。
開院直前には、スタッフと実際の診療を想定したシミュレーションを行います。
受付、問診、診察、検査、会計まで患者役を立てて確認し、想定以上に時間がかかる場所や患者が滞留する場所がないかチェックします。
また、地域住民へクリニックを知ってもらうために内覧会を行う場合は、診療内容や院長の専門性、院内設備などを伝えられるよう準備しておきましょう。
ただし、開院初日から診療枠を最大まで設定すると、スタッフが業務に慣れていない中で混乱する可能性があります。開院当初は余裕を持った予約枠からスタートし、状況を見ながら増やす方法も検討できます。
開院したらスケジュールは終了ではありません。事業計画で設定した患者数や売上と実際の数字を比較し、必要に応じて運営方法を調整します。
| 確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 患者数 | 推計患者数と実績に差がないか |
| 患者属性 | 想定していた年代・疾患と一致しているか |
| 診療時間 | 混雑する曜日・時間帯はいつか |
| スタッフ配置 | 人員の過不足がないか |
| 患者動線 | 受付・診察・会計に滞留がないか |
| 収支 | 事業計画との乖離がどの程度あるか |
新規開院したクリニックは認知されるまで一定の時間がかかる場合があります。短期間の患者数だけで判断せず、患者数の増減や新患・再診の割合を継続的に確認しましょう。
条件の良い物件を見つけても、診療圏調査や融資審査、補助制度の確認前に契約すると、後から事業計画を変更できなくなる可能性があります。
特に補助制度を利用する場合は契約時期が条件になることもあるため、診療圏調査・資金計画・支援制度を確認してから最終契約することが大切です。
医師本人は開業準備に意識が集中しやすい一方、家族には住居、仕事、学校など別の準備があります。
家族の生活が安定しなければ、開業後の医院経営にも影響しかねません。開業スケジュールと同じ段階から移住準備についても話し合っておきましょう。
地方では開業支援制度を利用できる場合がありますが、募集時期、対象地域、要件、予算などは年度によって変更される可能性があります。
支援制度は資金計画の助けになりますが、補助を受けられなくても成立する事業計画を基本にすることが重要です。
山口県ではUJIターンを「YY!ターン」として推進し、移住に関する情報提供や相談支援を行っています。
また、東京圏から山口県へ移住する人を対象とする移住支援制度もありますが、対象となる移住元・移住先や就業等の要件が設けられています。クリニックを開業する医師だから一律に対象となる制度ではないため、利用を検討する際は移住先の市町へ事前に確認しましょう。
参照元:山口県公式HP|UJIターン・UJIターンの推進の取組(https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/30/14160.html)
参照元:山口県公式HP|UJIターン・やまぐちテレワーク移住等支援事業費補助金について(https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/30/14157.html)
地方移住を伴うクリニック開業では、物件・資金調達・内装工事・採用・行政手続きといった通常の開業準備だけでなく、住居や家族の仕事、学校、引っ越しなど生活面の準備も同時に必要です。
そのため、「クリニック開業」と「地方移住」の2本のスケジュールを作り、開院予定日から逆算して管理することが重要です。
特に、補助制度の申請、工事・設備の契約、保険医療機関の指定などは順番や期限によって開院予定に影響する場合があります。できるだけ早い段階から行政窓口や開業支援会社にも相談し、余裕を持ったスケジュールを組みましょう。
当メディアでは、診療科目ごとに山口県でおすすめのクリニック開業支援会社を紹介しています。企業選びの参考情報としてご活用ください。
