都市部を離れ、地方へ移住してクリニックを開業する場合、単に「競合が少ない地域」を探せばよいわけではありません。地域によって人口減少の速度や高齢化率、患者の移動範囲、病院との役割分担などが異なるため、長期的な医療需要を見据えた開業地選びが必要です。
本記事では、地方移住してクリニックを開業するメリットや地域選び、経営面・生活面で確認しておきたいポイントを解説します。
地方移住によるクリニック開業とは、現在生活・勤務している都市部などから地方へ生活拠点を移し、その地域で診療所を新たに開設することです。
Uターン・Iターンのほか、特定の地域との縁にかかわらず、医療需要や自分の理想とする診療環境を求めて地方へ移るケースも含まれます。
地方では、人口そのものが少ない一方で、高齢者の割合が高かったり、特定診療科の医療機関が少なかったりする地域があります。そのため、都市部とは異なる視点から診療圏や事業性を判断する必要があります。
地方では、すべての地域で医師が不足しているわけではありませんが、医療圏や診療科によって供給状況に差があります。
既存クリニックが少ないだけでなく、院長の高齢化によって将来的な閉院が見込まれる地域や、病院への通院距離が長い地域などでは、新たな診療所が地域医療を支える役割を担える可能性があります。
自分の専門分野と地域で不足している医療機能が合致すれば、競合との差別化を目的とするだけではなく、地域ニーズそのものを開業コンセプトへ反映できます。
地方では、専門疾患だけを診るのではなく、地域のかかりつけ医として幅広い症状に対応することが求められる場合があります。
例えば内科外来に加えて訪問診療や介護事業者との連携を行ったり、整形外科で高齢者のリハビリ需要に対応したりするなど、地域の生活を支える診療モデルを構築できます。
都市部で培った専門性をそのまま持ち込むのではなく、地域で求められる機能と組み合わせることが重要です。
地方移住を検討する理由には、医療だけでなく、自然環境や子育て、家族との時間など生活面の希望もあるでしょう。
開業医になれば診療日や診療時間を自分で設計できるため、地域のニーズと自分のライフスタイルを調整しながら医院運営を考えることができます。
ただし、診療所は簡単に移転できません。「開業に適した場所」と「長期間暮らせる場所」の両方を満たしているかを確認することが大切です。
| 比較項目 | 地方 | 都市部 |
|---|---|---|
| 患者人口 | 比較的少ない地域が多い | 人口密度が高い地域が多い |
| 競合 | 地域・診療科による差が大きい | 同一診療科が集中するケースがある |
| 患者の移動 | 自家用車中心になりやすい | 徒歩・鉄道利用も多い |
| 診療圏 | 広域になる場合がある | 比較的狭い範囲になりやすい |
| 医療連携 | 限られた医療資源との連携が重要 | 複数の紹介先を確保しやすい場合がある |
| スタッフ採用 | 地域によって採用難度が高い | 人材は多い一方、競争も生じやすい |
地方では競合が少ないように見えても、診療圏人口そのものが少ない可能性があります。そのため、「競合数」と「患者需要」を必ずセットで確認しましょう。
地方開業では、現在の人口だけでなく10年後、20年後の人口構成を確認することが特に重要です。
現在は一定の患者数が見込めても、現役世代や子どもの人口が急速に減少する地域では、小児科や産婦人科などの対象患者数が大きく変化する可能性があります。
反対に総人口が減っても後期高齢者人口が維持される地域であれば、慢性疾患管理や在宅医療、整形外科、泌尿器科などの需要が一定程度残るケースも考えられます。
自分の診療科と将来の年齢構成が合っているかを確認しましょう。
地方では、市町村境を越えて患者が通院するケースがあります。隣接市に大型病院や人気クリニックがあれば、自院の候補地から患者が流出している場合もあります。
そのため、行政区域だけで競合を数えるのではなく、車で15分・30分など実際の生活圏を基準に診療圏を設定することが重要です。
クリニックですべての疾患を完結させることはできません。CT・MRI検査、手術、入院治療などが必要になった場合の紹介先を確保しておく必要があります。
地方では紹介先となる病院まで距離があるケースもあるため、どの病院とどのような病診連携が可能なのかを開業前に確認しましょう。
患者需要があっても、看護師や医療事務、理学療法士などを採用できなければ予定していた診療体制を構築できません。
特に人口規模の小さい地域では、医療従事者そのものが不足している場合があります。
スタッフが車で通勤できる範囲まで含めて求人市場を確認し、必要な職種と人数を本当に確保できるかを検討しましょう。
地方では、自家用車を主な移動手段としている患者が多い地域があります。その場合、駅からの近さより、幹線道路からの入りやすさや駐車場の使いやすさが集患に影響します。
単に駐車台数を確保するだけでなく、高齢者でも停めやすい区画幅や、右左折で入りやすい道路状況、車椅子利用者が雨天時でも院内へ移動しやすい乗降場所などを確認しましょう。
地図上の立地ではなく、実際に車で現地へ向かって確認することが重要です。
地域に詳しくない状態でクリニックを開業することに不安がある場合、移住後すぐに開業せず、地域の病院などで一定期間勤務する方法があります。
勤務を通じて、患者がどの病院へ紹介されているのか、どの診療科が不足しているのか、介護事業者との連携状況などを把握できます。
また、地域の医療関係者との信頼関係を構築してから独立することで、土地勘や医療ネットワークがない状態で開業するリスクを抑えられます。
移住・開業に関する支援制度は、都道府県や市町村、開業する地域によって異なります。
山口県ではUJIターンを「YY!ターン」として推進し、移住相談窓口や「やまぐちお試し暮らし」などを案内しています。
ただし、移住支援金などは居住地・就業形態・移住先市町など細かな要件が設定されているため、「地方で開業する医師なら必ず受給できる」という制度ではありません。個別に対象条件を確認してください。
参照元:山口県公式HP|UJIターン・UJIターンの推進の取組(https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/30/14160.html)
山口県では2026年度、重点医師偏在対策支援区域で診療所を承継・開業する場合に、一定の要件のもとで施設整備・設備整備・地域への定着を支援しています。
対象には柳井医療圏、長門医療圏のほか、美祢市全域、萩市全域、岩国市・下関市の一部地域などが設定されています。
地方移住と開業を同時に検討する場合は、自分の専門性が医師不足地域のニーズと合うかを確認し、対象となる支援制度を開業地選定の段階で調査しましょう。
なお、山口県の2026年度事業では、施設・設備整備について県からの内示後に契約したものが補助対象とされています。補助金を利用する予定がある場合は、先に工事・設備契約を進めないよう注意が必要です。
参照元:山口県公式HP|重点医師偏在対策支援区域における診療所の承継・開業支援事業の実施について(https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/45/312220.html)
特に重要なのは、単に「競合が少なそう」「地方なら開業しやすそう」という理由ではなく、その地域で医師として長く役割を担いたいと思えるかという点です。
地方移住によるクリニック開業では、医師不足地域で新しい医療を提供できる可能性がある一方、人口減少やスタッフ採用、広域な診療圏など地方ならではの経営課題があります。
重要なのは、「競合が少ない地域」を探すことではありません。自分の専門性を必要とする患者が将来も存在し、なおかつ自分や家族が生活を続けられる地域かを確認することです。
統計上の診療圏調査だけでなく、実際に候補地域へ足を運び、患者動線や医療連携、人材採用、生活環境まで確認したうえで開業地を決定しましょう。
当メディアでは、診療科目ごとに山口県でおすすめのクリニック開業支援会社を紹介しています。企業選びの参考情報としてご活用ください。
