地方でクリニックを開業するために移住する場合、準備が必要なのは院長本人だけではありません。配偶者の仕事や子どもの学校、住居、日常の交通手段など、家族全体の生活環境も同時に変化します。
クリニックとして魅力的な開業地でも、家族にとって生活しにくい地域であれば、長期間その土地で診療を続けることが難しくなる可能性があります。本記事では、クリニック開業に伴って家族で移住する際に確認しておきたいポイントを解説します。
医師本人だけが単身で移動する場合と異なり、家族で移住する場合は、開業地と生活拠点を同時に決める必要があります。
主に確認したい項目は以下の通りです。
| 項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 住居 | クリニックまでの距離、家賃・購入費、周辺環境 |
| 配偶者 | 仕事を継続できるか、転職が必要か |
| 子ども | 保育園、学校、通学環境、転校時期 |
| 交通 | 自家用車、公共交通、通勤・通学手段 |
| 生活 | 買い物、医療、行政サービスなど |
| 親族 | 実家との距離、介護・育児支援の受けやすさ |
開業候補地を評価するときは、診療圏としての条件と家族の生活条件を別々に整理し、最終的に両方を満たす地域を選ぶことが重要です。
クリニックの近くに住めば通勤時間を短縮でき、急な設備トラブルやスタッフ対応などが発生した際にも医院へ向かいやすくなります。
一方で、クリニック周辺が必ずしも家族にとって暮らしやすい住宅地とは限りません。商業地や幹線道路沿いに開業する場合、学校やスーパー、住宅環境などを考えると少し離れたエリアのほうが適している場合もあります。
そのため、単純に「医院から最も近い場所」に住むのではなく、以下を比較して決めましょう。
クリニックまで車で10~20分程度の範囲まで広げて住宅地を探すなど、開業地と居住地を別々に考えることも一つの方法です。
家族移住では、医師本人の開業だけでなく、配偶者の働き方も大きく変わる可能性があります。
現在の勤務先を退職して一緒に移住するのか、転勤やテレワークが可能なのか、移住先で新しい仕事を探すのかによって、家計や移住時期も変わります。
特に開業直後はクリニックの収入が安定しない可能性もあるため、配偶者の収入を含めた世帯全体の資金計画を考えておくことが大切です。
また、配偶者が医療従事者だからといって、当然にクリニックで働く前提にするのではなく、本人の希望やキャリアも含めて役割を話し合いましょう。
子どもを連れて移住する場合は、開業地選定の段階から学校や保育環境も確認しておく必要があります。
確認したいポイントには以下があります。
地方では学校まで距離がある地域もあるため、地図上で位置を確認するだけでなく、実際の通学手段まで確認して住宅地を選ぶことが重要です。
子どもの転校を伴う場合、開院日だけを基準に移住日を決めると、学期の途中で転校することになる場合があります。
可能であれば春休みや夏休みなど、学校生活の区切りに合わせて先に家族が移住する、または開業時期を調整する方法も検討できます。
医院の開院スケジュールと子どもの学校スケジュールを別々に作成して調整すると、家族への負担を抑えやすくなります。
地方では、自家用車が日常生活に欠かせない地域も少なくありません。
医師本人がクリニックへ車で通勤している間、配偶者が買い物や子どもの送迎に使える車がなくなる可能性もあります。
そのため、移住前に以下を確認しておきましょう。
車を追加購入する場合は、車両費だけでなく保険料、駐車場、燃料費なども移住後の生活費に含めて考えましょう。
開業候補地を医師本人だけで視察し、家族には写真やインターネットの情報だけで説明するのは避けたいところです。
可能であれば家族全員で候補地を訪れ、実際の生活を想定して確認しましょう。
例えば、以下のような過ごし方をすると地域の暮らしをイメージしやすくなります。
山口県では、県外在住者で山口県へのUJIターンを検討している人を対象に、県内での暮らしを体験できる「やまぐちお試し暮らし制度」を案内しています。
開業地を最終決定する前に、こうした制度も利用しながら家族全員が地域との相性を確認すると良いでしょう。
参照元:山口県公式HP|UJIターン・UJIターンの推進の取組(https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/30/14160.html)
家族の移住時期に一律の正解はありませんが、クリニック開院と同日に引っ越すようなスケジュールは避けたほうが良いでしょう。
開院直前には、医療機器の納品やスタッフ研修、行政手続き、業者との打ち合わせなどが集中します。その時期に住居の引っ越しや学校手続きまで重なると、院長・家族双方の負担が大きくなります。
| 移住時期 | 特徴 |
|---|---|
| 開院数カ月前 | 地域での生活に慣れてから開院準備へ集中しやすい |
| 開院1カ月前程度 | 旧勤務先との調整がしやすい一方、開院準備と重なりやすい |
| 開院後 | 家族が旧居に残る期間が発生し、二重生活になる場合がある |
子どもの学校や配偶者の退職・転職時期も含めて、「開院に最適な時期」と「家族が移住しやすい時期」の接点を探しましょう。
クリニック開業では、内装工事や医療機器、スタッフ人件費などに多くの資金が必要です。
しかし、手元資金を開業費に使いすぎると、移住後の家族の生活に余裕がなくなる可能性があります。
家族移住では、以下のような費用も発生します。
クリニックの運転資金とは別に、家族が一定期間生活できる資金を確保しておくと、開院直後の患者数が想定を下回った場合にも対応しやすくなります。
地方へ家族で移住する場合、移住元や移住先、働き方などの条件によっては自治体の移住支援制度を利用できる場合があります。
山口県では、東京圏から県内へ移住して一定の要件を満たす人を対象とした移住支援制度があり、2026年度は2人以上の世帯で100万円、単身で60万円が支給される制度があります。また、対象となる場合は18歳未満の世帯員1人につき100万円が加算されます。
ただし、移住元での居住・通勤期間や移住後の要件などが定められており、クリニックを開業する医師や家族で移住する世帯が自動的に対象になるわけではありません。
また、制度の実施状況や条件は移住先市町によって異なる場合があります。支援金を資金計画へ組み込む前に、必ず移住予定の市町へ確認してください。
参照元:山口県公式HP|UJIターン・やまぐちテレワーク移住等支援事業費補助金について(https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/30/14157.html)
山口県では、移住に関する相談をワンストップで受け付ける「やまぐち暮らし・しごと支援センター(YY!テラス)」を設けています。
山口のほか東京・大阪・福岡にも相談窓口があり、移住を検討している段階から地域や暮らしについて相談できます。
クリニックの物件や融資、医療機器などは開業支援会社へ相談し、住居や家族の暮らしについては移住相談窓口を利用するなど、開業と生活で相談先を使い分けると情報収集を進めやすくなります。
参照元:山口県公式HP|UJIターン・UJIターンの推進の取組(https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/30/14160.html)
| 分類 | チェック項目 |
|---|---|
| 開業 | 診療圏・競合・物件・資金計画 |
| 住居 | 勤務地との距離・周辺環境・駐車場 |
| 配偶者 | 仕事・転職・収入の変化 |
| 子ども | 保育園・学校・転校時期・通学方法 |
| 交通 | 車の台数・公共交通・帰省手段 |
| 生活 | 買い物・医療・行政サービス |
| 資金 | 引っ越し費用・生活予備資金 |
| 支援制度 | 県・市町の移住支援制度の対象可否 |
すべての条件を満たす地域を見つけることは難しいため、家族で「絶対に譲れない条件」と「妥協できる条件」を分けておくと判断しやすくなります。
旧勤務先の退職時期や子どもの学校によっては、家族全員が同時に移住できない場合もあります。
例えば、子どもの新学期に合わせて家族が先に移住し、医師本人が旧勤務先での勤務を終えてから合流する方法があります。反対に、医師本人が先に現地へ入り、開業準備を進めた後に家族を呼び寄せる方法もあります。
ただし、別居期間が長くなると二重に住居費が発生するほか、育児や生活面で家族の負担が増える可能性があります。
どちらが適しているかは、開院日だけでなく学校年度・配偶者の仕事・旧居の契約期間なども含めて判断しましょう。
クリニック開業に伴う地方移住では、院長本人にとって理想的な開業地であることだけでなく、家族がその地域で長く生活できることも重要です。
配偶者の仕事や子どもの学校、住居、交通、生活費などを開業準備の後回しにすると、開院直前になって家族の生活条件が合わないことが分かる可能性があります。
「医院をどこに開くか」と「家族がどこで暮らすか」を同時に検討し、家族全員が納得できる移住計画を立てることが大切です。
候補地域が決まったら、家族で実際に現地を訪れ、日常生活を想定した環境を確認したうえで、開業・移住の最終判断を行いましょう。
当メディアでは、診療科目ごとに山口県でおすすめのクリニック開業支援会社を紹介しています。企業選びの参考情報としてご活用ください。
