山口県でクリニック開業を検討する際、新たに物件や設備を用意する「新規開業」だけでなく、既存の医院を引き継ぐ「医院承継」も選択肢の一つです。
山口県では、開業医の高齢化や後継者不足を背景に、県と山口県医師会が医業承継を支援する取り組みを行っています。本記事では、山口県で医院承継を検討する医師に向け、県内の現状や相談先、支援制度、承継を進める際のポイントを解説します。
医院承継とは、現在運営されている診療所を後継医師が引き継ぎ、地域での診療を継続することです。「医業承継」と呼ばれることもあります。
承継方法には、院長の子どもなどが引き継ぐ親族内承継のほか、勤務医や第三者の医師へ譲渡する方法があります。
| 承継方法 | 概要 |
|---|---|
| 親族内承継 | 子どもや親族などが医院を引き継ぐ |
| 院内承継 | 勤務している医師などが医院を引き継ぐ |
| 第三者承継 | 親族・勤務医以外の医師へ医院を譲渡する |
後継者が親族内にいない場合でも、第三者承継によって医院を残せれば、既存患者の診療継続や地域の医療提供体制の維持につながります。
参照元:山口県医師会|医業承継支援事業について(https://www.yamaguchi.med.or.jp/wp-content/uploads/2025/01/1siryou.pdf)
山口県では、医療機関数の減少と医師の高齢化が課題となっています。
山口県の医業承継支援事業に関する資料によると、県内の病院・診療所数は1999年の1,496施設から2022年には1,363施設となり、133施設減少しています。
| 1999年 | 2022年 | 増減 | |
|---|---|---|---|
| 病院 | 154施設 | 139施設 | -15施設 |
| 診療所 | 1,342施設 | 1,224施設 | -118施設 |
| 合計 | 1,496施設 | 1,363施設 | -133施設 |
また、2022年時点における山口県の医師の平均年齢は53.3歳で、全国平均50.3歳を上回っています。
院長が引退する際に後継者が見つからなければ、患者が継続して診療を受けられなくなるだけでなく、地域によっては近隣医療機関への負担増加にもつながります。そのため山口県では、廃院ではなく医院承継によって地域の医療機能を残す取り組みが進められています。
参照元:山口県医師会|医業承継支援事業について(https://www.yamaguchi.med.or.jp/wp-content/uploads/2025/01/1siryou.pdf)
山口県では、地域医療提供体制を維持するため、「医業譲渡を希望する診療所」と「医院を譲り受けたい医師」を支援する医業承継支援事業を実施しています。
事業主体は山口県で、業務の一部を山口県医師会へ委託しています。
主な支援内容は以下の通りです。
第三者から医院を引き継いで開業したい医師にとって、自力で譲渡希望のクリニックを探すことは簡単ではありません。山口県内で医院承継による開業を検討している場合は、物件探しと並行して医業承継の相談窓口へ登録・相談することも検討しましょう。
参照元:山口県医師会|医業承継支援事業について(https://www.yamaguchi.med.or.jp/wp-content/uploads/2025/01/1siryou.pdf)
山口県医師会では、医業承継に関する相談窓口を設けています。
また、県の医業承継支援事業として、医業経営コンサルタントや税理士などによる初期相談も行われています。
| 相談先 | 山口県医師会 医業承継相談窓口 |
|---|---|
| 主な相談内容 | 医院の譲渡・譲受、マッチング、承継に関する初期相談など |
| 電話番号 | 083-922-2510 |
| 受付 | 平日9時~17時 |
医院承継では、単に売り手と買い手を見つければ完了するわけではありません。譲渡価格や不動産、医療機器、税務、スタッフの雇用、患者情報など幅広い確認事項があります。
承継を具体的に進める段階では、医療分野に詳しい税理士・弁護士・医業経営コンサルタントなどの専門家も交えて条件を整理すると良いでしょう。
参照元:山口県医師会|医業承継の実務と留意点(https://www.yamaguchi.med.or.jp/wp-content/uploads/2026/01/20260115no2.pdf)
新規開業では、開院後に地域住民へ認知を広げ、ゼロから患者を集めていく必要があります。
医院承継の場合、前院長の患者が引き続き通院する可能性があり、開院直後から一定の患者基盤を確保しやすいことがメリットです。
ただし、院長が交代することで患者が他院へ移る場合もあります。現在の患者数をそのまま将来の患者数として収支計画に組み込まず、承継後の患者離脱も想定しておきましょう。
長く診療を続けてきた医院であれば、「この場所にクリニックがある」という認知が既に地域に定着しています。
診療科や診療内容を大きく変更しない場合は、前院長から患者や地域の医療関係者へ後継医を紹介してもらうことで、診療を引き継ぎやすくなります。
建物や内装、医療機器などを利用できれば、新規開業よりも設備投資を抑えられる場合があります。
また、看護師や医療事務などが継続勤務すれば、新規採用の負担を減らせるだけでなく、患者や医院業務を理解したスタッフと診療を開始できる点もメリットです。
現在多くの患者が来院していても、院長の高齢化とともに患者も高齢化している場合があります。
また、地域自体の人口減少が進んでいれば、承継直後は経営できても、将来的に患者数が減少する可能性があります。
医院承継の場合でも新規開業と同様に、診療圏人口、将来人口、競合状況を改めて調査しましょう。
医療機器を引き継げることは初期投資を抑えるメリットになりますが、古い設備であれば承継後すぐに更新が必要となるケースがあります。
それぞれの機器について、導入時期、保守状況、残存リース期間などを確認し、譲渡価格とは別に今後必要になる設備投資も資金計画へ反映しましょう。
既存患者は前院長の人柄や診療方針を信頼して通院している場合があります。
後継医が診療時間や治療方針を大幅に変更すると、患者が他院へ移る可能性もあります。可能であれば前院長と一定期間一緒に診療するなど、患者が新しい院長へ慣れるための引継ぎ期間を設けることも検討しましょう。
医院承継では、不動産や医療機器などの有形資産に加えて、患者基盤や医院の信用などを営業権として評価する場合があります。
提示された価格をそのまま受け入れるのではなく、過去数年の収益、設備価値、将来の患者数、必要な改修費などを確認し、承継後の利益から無理なく回収できる金額かを判断することが重要です。
山口県では、へき地の医療提供体制を維持するため、「山口県へき地医業承継支援事業費補助金」を設けています。
2026年度の制度では、へき地に所在する民間診療所等を譲り受ける場合、一定の要件を満たすことで以下の支援を受けられます。
| 補助対象者 | へき地に所在する診療所等の譲受者 |
|---|---|
| 補助対象経費 | 承継に伴う施設・設備整備、広告経費など |
| 補助率 | 1/2 |
| 補助上限額 | 450万円 |
対象となるには、県が行う医業承継支援事業によるマッチングを経ていることなどの条件があります。
また、補助金交付後5年を経過する前に承継した医院を継続して運営できなくなり、事業目的を達成できない場合には返還を求められることがあります。
へき地での医院承継を検討する場合は、承継契約を進める前に補助要件を確認しましょう。
参照元:山口県公式HP|山口県へき地医業承継支援事業費補助金(https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/45/261222.html)
山口県では2026年度、重点医師偏在対策支援区域で診療所を承継・開業する医師を対象に、施設整備や設備整備、地域への定着を支援する事業を実施しています。
対象区域は以下の通りです。
| 区分 | 対象地域 |
|---|---|
| 柳井医療圏 | 柳井市、周防大島町、上関町、田布施町、平生町 |
| 長門医療圏 | 長門市全域 |
| 岩国市 | 錦町、美和町 |
| 美祢市 | 全域 |
| 下関市 | 豊田町、豊浦町 |
| 萩市 | 全域 |
例えば施設整備事業では、対象経費について一定の基準額をもとに2分の1の補助が設定されています。
ただし、応募すれば自動的に補助を受けられるわけではありません。山口県医療対策協議会・保険者協議会での協議や厚生労働省による審査などが必要です。
また、施設・設備整備については、県からの内示以降に締結した工事・購入契約が補助対象となります。医院承継と同時に改装や設備更新を予定している場合は、契約前に県へ相談することが重要です。
参照元:山口県公式HP|重点医師偏在対策支援区域における診療所の承継・開業支援事業の実施について(https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/45/312220.html)
条件の良い医院が見つかっても、すぐに契約するのではなく、財務状況や設備、雇用関係などを確認する期間を設けることが大切です。
また、個人診療所では前院長の廃止と新院長による開設などの手続きが必要になる場合があります。診療が途切れないよう、行政手続きも含めたスケジュールを作成しましょう。
| 確認項目 | 主なチェック内容 |
|---|---|
| 患者 | 患者数、新患・再診割合、年齢構成、疾患構成 |
| 収益 | 過去数年の売上・利益・診療報酬 |
| 設備 | 医療機器の年式、故障履歴、リース契約 |
| 不動産 | 所有・賃貸の別、賃貸条件、修繕状況 |
| スタッフ | 人数、給与、勤続年数、承継後の勤務意向 |
| 診療圏 | 人口、将来人口、競合医療機関 |
| 契約 | リース、保守、取引業者等の契約関係 |
| 地域連携 | 病院、介護施設、医師会等との関係 |
特に注意したいのが、現在の経営成績が「医院の力」によるものなのか、「前院長個人の信用・技術」によるものなのかという点です。
院長交代後に患者数や紹介数がどの程度変化する可能性があるかまで考え、余裕を持った収支計画を立てましょう。
医院承継は、既存患者や設備、地域での認知などを引き継げるため、新規開業とは異なるメリットがあります。
特に山口県では、県と山口県医師会による医業承継支援事業のほか、へき地や重点医師偏在対策支援区域における医院承継への補助制度も設けられています。
一方、候補となる医院が見つかったとしても、患者数・収益・設備・スタッフ・将来人口などを十分に確認せず承継すると、開業後に想定外の負担が発生する可能性があります。
「医院を引き継げるか」だけではなく、「引き継いだ後も地域で安定して経営できるか」まで確認することが重要です。山口県で医院承継による開業を検討する場合は、早い段階から相談窓口や専門家を活用しましょう。
当メディアでは、診療科目ごとに山口県でおすすめのクリニック開業支援会社を紹介しています。企業選びの参考情報としてご活用ください。
