「勤務医を続けるべきか、それとも独立開業すべきか」と悩む医師は少なくありません。勤務医には収入や雇用の安定性がある一方、開業医には診療方針や働き方を自分で決められるメリットがあります。
どちらが良いかは、収入だけでは判断できません。本記事では、勤務医と開業医の違いを収入・働き方・責任・将来性などの観点から比較し、それぞれに向いている医師の特徴を解説します。
結論から言えば、安定性を重視するなら勤務医、自分の理想とする診療や経営を実現したいなら開業医が向いています。
勤務医と開業医には、以下のような違いがあります。
| 比較項目 | 勤務医 | 開業医 |
|---|---|---|
| 収入 | 比較的安定している | 経営状況によって変動する |
| 収入の上限 | 勤務先の給与体系に左右される | 経営次第で高収入を目指せる |
| 診療方針 | 病院・組織の方針に従う | 自分で決めやすい |
| 勤務時間 | 勤務先のシフトに左右される | 診療時間を自分で設計できる |
| 当直・オンコール | 勤務先によって発生する | 診療形態によっては抑えられる |
| 経営責任 | 基本的に負わない | 院長自身が負う |
| 人事・採用 | 病院側が担当 | 院長が採用・労務管理を行う |
| 初期投資 | 原則不要 | 物件・内装・医療機器などが必要 |
| 廃業・経営悪化リスク | 比較的小さい | 院長自身が負う |
「開業すれば勤務医より必ず収入が増える」「勤務医なら経営リスクがまったくない」といった単純な比較はできません。自分が医師として何を優先したいのかを明確にしたうえで判断することが大切です。
勤務医の大きなメリットは、基本的に毎月決まった給与が支払われることです。患者数が一時的に減少した場合でも、自分自身が直接的にクリニックの売上減少を負担するわけではありません。
住宅ローンや子どもの教育費など、今後の支出がある程度決まっている場合は、将来の収入を予測しやすい勤務医の安定性がメリットとなります。
勤務医であれば、医療機器の購入、スタッフの採用・給与計算、集患、資金繰りといった経営業務の多くは病院側が担います。
開業すると診療以外にも経営者として多くの判断が求められますが、勤務医であれば医療そのものに集中しやすい環境を維持できます。
病院ではCT・MRI・手術室など高額な設備を利用できるほか、複数の診療科や看護師、薬剤師、リハビリ職などと連携して診療できます。
特に、高度急性期医療や手術、重症患者の治療を中心にキャリアを積みたい医師にとっては、病院ならではの医療環境そのものが大きなメリットとなるでしょう。
勤務医は組織の一員であるため、外来日や勤務時間、当直、異動、診療方針などをすべて自分の希望通りに決められるとは限りません。
「もっと一人ひとりの患者に時間をかけたい」「専門外来を中心に診療したい」と考えていても、勤務先の方針によって実現できないケースがあります。
勤務医の給与は勤務先の給与体系や役職、勤務日数などに左右されます。専門医資格を取得したり役職に就いたりすることで収入が増えることはありますが、自分の努力がそのまま収入へ反映されるとは限りません。
勤務医として高収入を目指す場合、当直や非常勤勤務を増やす方法もありますが、収入増加と引き換えに勤務時間が長くなる可能性があります。
開業医になれば、診療科目や専門外来、診療時間、予約方法、導入する医療機器などを自分で決定できます。
例えば、「生活習慣病の継続管理に力を入れたい」「内視鏡検査を中心としたクリニックにしたい」「訪問診療にも対応したい」など、これまでの経験や専門性を生かした診療スタイルを実現しやすくなります。
開業後に患者数を確保し、効率的なクリニック経営を実現できれば、勤務医時代を上回る収入を目指せる可能性があります。
特に、競合が少なく医療ニーズの高い地域を選び、自院の専門性に合った診療圏を確保できれば、売上を伸ばせる可能性があります。
一方で、「開業医の収入」と「診療所の利益」は同じものではない点には注意が必要です。厚生労働省も、個人開業医の収支差額には院長の報酬相当額だけでなく、借入金の元本返済や設備更新、退職金相当の積立てなどに充てられる部分が含まれるため、勤務医の給与と単純比較できないと説明しています。
参照元:厚生労働省|「勤務医の給料」と「開業医の収支差額」について(https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken12/iryouhoushu.html)
開業医は診療時間や休診日を自分で設定できます。病院勤務のような当直や頻繁な異動を避け、自分や家族の生活に合わせた働き方を設計することも可能です。
ただし、開業当初は診療終了後に経理や採用、業者との打ち合わせなどを行うケースもあるため、「開業すれば勤務時間が必ず短くなる」わけではありません。
クリニックの開業には、物件取得費、内装工事費、医療機器費、電子カルテなどのシステム費、広告費、開業後の運転資金などが必要です。
必要額は診療科によって大きく異なり、精神科・心療内科など比較的設備投資を抑えやすい診療科がある一方、内視鏡設備を必要とする消化器内科や、リハビリスペースを設ける整形外科、透析設備を備える透析内科などでは高額になる傾向があります。
借入額が大きくなれば、患者数が想定を下回った場合の経営リスクも高くなるため、開業前に診療圏調査と収支シミュレーションを行うことが重要です。
開業医には給与が保証されているわけではありません。患者数が少ない月でも、スタッフの給与やテナント賃料、医療機器のリース料、借入金返済などは発生します。
厚生労働省の「第25回医療経済実態調査」でも、一般診療所の損益状況には施設ごとに大きなばらつきが確認されています。開業すれば自動的に高収益になるわけではなく、経営力が収益に直結する点を理解しておきましょう。
参照元:厚生労働省|第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001599544.pdf)
クリニック経営では看護師や医療事務、技師などの採用も必要です。必要な人数を確保できなければ、予定していた診療体制そのものを構築できない場合があります。
採用後も給与やシフト、人間関係、退職への対応など、勤務医時代には経験しなかった業務が発生します。
医師としてだけでなく経営者・雇用主として組織を運営する必要があることは、開業前に理解しておきたいポイントです。
厚生労働省の「2024年賃金構造基本統計調査」では、勤務する医師の給与水準を確認できます。一方、開業医については診療所の医業収益から給与費・医薬品費・設備費などを差し引いた損益を基に経営状況を考える必要があります。
ここで注意したいのが、勤務医の「給与」と個人開業医の「収支差額」をそのまま比べることはできないという点です。
| 勤務医 | 毎月の給与・賞与が収入の中心。収入は比較的安定している |
|---|---|
| 開業医 | クリニックの売上から人件費・家賃・医療機器費などを支払って経営する。業績によって収入が変わる |
開業医は経営が軌道に乗れば高収入を目指せる一方、売上が低迷すれば勤務医時代より手取りが減る可能性もあります。
そのため、「どちらの平均年収が高いか」ではなく、自分が開業した場合にどの程度の患者数・売上・利益を確保できるのかをシミュレーションして比較することが大切です。
参照元:政府統計の総合窓口(e-Stat)|2024年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?cycle=0&layout=datalist&month=0&tclass1=000001224440&tclass2=000001225782&tclass3=000001225788&toukei=00450091&tstat=000001011429&year=20240)
参照元:厚生労働省|医療経済実態調査(医療機関等調査)(https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/iryoukikan.html)
以下のような考えを持っている場合は、現時点では勤務医を続ける選択肢が向いていると考えられます。
特に、「周囲が開業し始めたから」「開業医の方が儲かりそうだから」といった理由だけで独立するのは避けたいところです。
勤務医として専門性を高めたり、経営に必要な経験や人脈を築いたりする期間も、将来の開業準備として活用できます。
一方、以下のような考えを持っている場合は、開業を具体的に検討しても良いでしょう。
開業医に必要なのは医療技術だけではありません。物件選定や資金調達、採用、マーケティング、労務管理などを含めて「一つの事業を経営する」という意識を持てるかが重要です。
まず、「なぜ開業したいのか」を整理しましょう。
収入を増やしたい、理想の診療を実現したい、当直を減らしたい、地域医療に貢献したいなど、目的によって適切なクリニックの形は変わります。
勤務先を変えるだけで解決できる悩みなのか、独立しなければ実現できない目標なのかを切り分けることが重要です。
勤務医の年収と漠然と比較するのではなく、候補地で開業した場合の推計患者数、診療単価、売上、人件費、家賃、借入返済額などを具体的に算出します。
例えば、想定患者数が1日40人の場合と60人の場合では、開業後の収支は大きく変わります。複数のシナリオを用意し、患者数が計画を下回っても経営を続けられるかまで確認しておきましょう。
開業すると、診療以外の意思決定も院長の仕事になります。スタッフから退職の相談を受けたり、売上が下がった原因を分析したり、設備の故障時に数百万円規模の支出を判断したりする可能性があります。
こうした業務を「診療以外の面倒な仕事」と感じるのか、「自分のクリニックをつくるための経営」として取り組めるのかも、開業適性を考える材料になります。
勤務医からの独立を決めても、「山口県のどこで開業しても同じ」というわけではありません。
地域ごとに人口構成や将来人口、競合クリニック数が異なるほか、診療科によっても需給状況は変わります。そのため、候補地では診療圏調査を行い、開業後に必要な患者数を確保できるかを確認しましょう。
また、山口県内には外来医師多数区域や重点医師偏在対策支援区域に該当する地域もあります。開業場所によって必要な対応や利用できる支援制度が変わる可能性があるため、物件契約前に最新情報を確認することも重要です。
勤務医と開業医には、それぞれメリットとデメリットがあります。安定した収入や病院ならではの診療環境を重視するなら勤務医、自分の診療方針や働き方を形にしたいなら開業医が適しているでしょう。
重要なのは、単純な平均年収の比較ではなく、「医師としてどのような働き方をしたいのか」「経営者になるリスクを許容できるのか」を具体的に考えることです。
開業に興味があるものの判断できない場合は、すぐに勤務先を辞めるのではなく、勤務医を続けながら診療圏調査や事業計画、資金計画を進め、自分が開業した場合の収支を具体化してから判断すると良いでしょう。
当メディアでは、診療科目ごとに山口県でおすすめのクリニック開業支援会社を紹介しています。企業選びの参考情報としてご活用ください。
