地方でクリニックを開業する際、「競合が少ない」「土地やテナントが安い」といった理由だけで立地を決めるのは避けたいところです。地方では地域によって人口減少のスピードや年齢構成、患者の移動手段、近隣医療機関との役割分担などが大きく異なります。
本記事では、地方でクリニックを開業する際の立地の選び方について、人口・競合・患者動線・将来性など確認しておきたいポイントを解説します。
クリニックは一度開業すると簡単に移転できません。内装工事や医療機器、看板、患者への周知などに多額の費用がかかるため、開業後に「患者が想定ほど来ない」と分かっても、すぐに別の地域へ移ることは難しくなります。
特に地方では、市区町村全体では人口が多く見えても、実際には居住地域が広く分散していたり、患者が隣接市の医療機関へ通院していたりすることがあります。
そのため、地方での立地選びでは「人口が多い場所」ではなく「自院の患者になり得る人が継続的に通院できる場所」を探すことが重要です。
| 確認項目 | 主なチェック内容 |
|---|---|
| 人口 | 現在人口、年齢構成、診療対象となる年代 |
| 将来人口 | 10年後・20年後の人口と年齢構成 |
| 競合 | 同じ診療科の施設数、診療内容、専門性 |
| 患者動線 | 道路、鉄道、買い物、通勤・通学などの生活圏 |
| アクセス | 駐車場、道路からの入りやすさ、公共交通 |
| 医療連携 | 紹介先となる病院、検査・入院・手術の連携 |
| 将来リスク | 人口減少、災害、人材採用など |
立地選びの基本となるのが、診療圏内にどの程度の人口がいるかを確認することです。
ただし、総人口だけを見ても十分ではありません。重要なのは、自院の診療科を利用する可能性が高い年代がどの程度いるかです。
例えば、同じ人口3万人の地域でも、子どもが多い地域と高齢者が多い地域では、小児科・整形外科・内科など各診療科の需要は異なります。
地方で開業する場合は、市町村単位だけでなく、可能であれば町丁目など細かな単位まで確認し、実際の診療圏に近い人口構成を把握しましょう。
地域医療情報システム(JMAP)では、地域ごとの人口構成や医療施設数などを確認できます。
参照元:地域医療情報システム(日本医師会)(https://www.jmap.jp/)
地方での立地選びでは、現在の人口以上に将来的にも患者需要が維持される地域かを確認することが重要です。
クリニックを開業すれば、その地域で10年、20年以上診療を続けることも想定されます。現在は人口が多くても、若年層の流出などによって将来的に人口が大きく減少する地域では、長期的な患者数も減る可能性があります。
国立社会保障・人口問題研究所が公表している「日本の地域別将来推計人口」では、2020年の国勢調査を基に、2050年までの市区町村別人口を5年ごとに確認できます。
また、総人口だけでなく、0~14歳、15~64歳、65歳以上、75歳以上など年代別の将来人口も公表されています。
例えば総人口が減少する地域でも、高齢者人口が一定期間維持されるのであれば、内科・整形外科・泌尿器科などでは需要が残る可能性があります。
「人口が減るかどうか」ではなく、「自院が診療する患者層がどう変化するか」という視点で確認しましょう。
参照元:国立社会保障・人口問題研究所|日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)(https://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson23/t-page.asp)
候補地域に同じ診療科のクリニックが少なければ、開業余地があるように見えます。しかし、単純な施設数だけで立地を判断するのは避けましょう。
既存クリニックについて、以下のような点まで確認する必要があります。
例えば同じ「内科」であっても、生活習慣病中心、消化器疾患中心、循環器疾患中心など診療内容は異なります。
また、競合クリニックが少ない地域には、単純に医療機関が少ないのではなく、患者人口そのものが少ない可能性もあります。
JMAPでは、地域ごとに診療所数や診療科別の医療資源を確認できます。周辺市町まで含めて競合状況を確認しましょう。
参照元:地域医療情報システム(日本医師会)|山口県(https://www.jmap.jp/cities/detail/pref/35)
地方では、行政上の市町村境と住民の生活圏が一致しないことがあります。
例えば、自宅はA市にあっても、勤務先やスーパー、学校、病院などをB市で利用している住民もいます。その場合、A市だけの人口・競合データを見ても実際の患者動線を把握できません。
立地選びでは、候補地を中心に車で10分・15分・30分など実際の移動時間を基準とした診療圏を考えることが重要です。
現地では以下のような施設や道路との位置関係も確認しましょう。
日常的な移動ルート上にクリニックがあれば、患者に認知されやすく、通院の負担も抑えられます。
人口データを見る際には、居住人口だけでなく昼間人口も確認したいところです。
住宅地では夜間人口が多い一方、オフィスや工場、学校が集まる地域では、日中に周辺地域から多くの人が流入する場合があります。
総務省の国勢調査では、市区町村ごとに常住人口と従業地・通学地による人口を確認でき、昼夜間人口の違いを把握できます。
例えば、働く世代を対象にした内科や心療内科などでは、居住人口だけでなく日中に地域内で働く人の数も立地判断の材料になります。
一方、高齢者の慢性疾患管理などを中心とするクリニックでは、住宅地に近く日常的に通院しやすい場所が適している場合があります。
参照元:政府統計の総合窓口(e-Stat)|令和2年国勢調査 常住地又は従業地・通学地別人口(https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003454498)
自家用車で通院する患者が多い地域では、駅からの距離よりも駐車場や道路アクセスが重要になる場合があります。
立地候補を現地で確認する際は、単純な駐車可能台数だけでなく、以下も確認しましょう。
特に高齢患者が多い診療科では、「駐車場がある」ことより「患者自身が安全に駐車・乗降できる」ことが大切です。
候補物件を確認するときは、平日の午前・午後、休日など時間帯を変えて実際に車で訪れてみましょう。
地方では医療機関が広い範囲に分散している場合があります。そのため、自院で対応できない検査・治療が必要になった際の紹介先も立地選びの重要な条件です。
例えば、以下のような連携先を確認します。
紹介先まで距離が遠い場合、患者の負担が大きくなるだけでなく、緊急時の対応にも影響します。
自院単体の立地ではなく、地域の医療ネットワークの中でどの役割を担えるかという視点で候補地を評価しましょう。
患者数が見込める立地でも、看護師や医療事務など必要なスタッフを採用できなければ、想定していた診療体制をつくれません。
地方では医療従事者の採用可能エリアも広く考える必要があります。
例えば、候補地から車で30分以内にどの程度の住宅地があるか、近隣に病院や診療所が多く人材獲得競争が激しくないかなどを確認しましょう。
開業候補地を比較する際は、患者にとっての通いやすさとスタッフにとっての通勤しやすさの両方を評価することが大切です。
地方のクリニックは地域住民にとって身近な医療機関となるため、災害時にも可能な範囲で医療機能を維持できる立地が望まれます。
物件候補地については、洪水、土砂災害、高潮、津波などのリスクも確認しましょう。
国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」では、洪水浸水想定区域や土砂災害警戒区域、高潮、津波など複数の災害リスクを地図上で重ねて確認できます。
特に、高額な医療機器を1階に設置する場合や、停電すると診療継続が難しくなる診療科では、浸水リスクや停電時の対応まで含めて物件を検討することが重要です。
参照元:国土交通省|ハザードマップポータルサイトを活用して災害に備えよう(https://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo06_hh_000319.html)
競合が少ないのは、患者需要が少ないことの裏返しである可能性があります。人口・受療率・競合数を組み合わせて判断しましょう。
土地取得費を抑えられても、患者が通いにくい場所であれば長期的な集患に影響します。
実家や所有地を利用する場合でも、その土地を使わない前提でも候補地として選ぶかという視点で評価すると良いでしょう。
現在の人口が十分でも、開業後10~20年で大きく減少する可能性があります。診療対象となる年代の将来人口まで確認しましょう。
人口・競合データでは、道路の混雑や駐車場への入りやすさ、坂道、患者の生活動線までは分かりません。
候補地が絞れたら、必ず現地を複数回訪れて確認することが重要です。
重要なのは、最初に気に入った物件を見つけてから診療圏調査をするのではなく、地域を絞る→診療圏を調べる→最後に物件を選ぶという順番で進めることです。
山口県内でクリニックを開業する場合も、県全体の人口や医療機関数だけを見て判断することはできません。
地域医療情報システム(JMAP)では、山口県全体だけでなく、二次医療圏・市区町村単位で医療機関数や人口構成などを比較できます。
例えば山口県全体では一般診療所が951施設ありますが、実際の医療資源は地域によって異なります。
開業を検討する際は、山口市、下関市、宇部市など人口規模の大きい都市だけに絞らず、自分の診療科に対する需要・競合・将来人口を市町単位で比較して候補地域を検討しましょう。
参照元:地域医療情報システム(日本医師会)|山口県(https://www.jmap.jp/cities/detail/pref/35)
地方でクリニックを開業する際は、現在の人口や競合数だけでなく、将来人口、患者の生活動線、病院との連携、スタッフ採用、災害リスクなどを総合的に確認する必要があります。
特に重要なのは、「現在患者がいる場所」ではなく、「10年、20年後も自院を必要とする患者が通院し続けられる場所か」という視点です。
候補地域を複数設定し、統計データと診療圏調査で比較したうえで現地を訪問し、患者目線・スタッフ目線の双方から立地を確認しましょう。
また、診療科によって適切な診療圏や必要な立地条件は異なります。開業候補地の選定に迷う場合は、地域の医療事情に詳しい開業支援会社などへ相談しながら検討すると良いでしょう。
当メディアでは、診療科目ごとに山口県でおすすめのクリニック開業支援会社を紹介しています。企業選びの参考情報としてご活用ください。
