出身地ではない地域へ移住し、クリニックを開業する「Iターン開業」。地域とのしがらみに左右されず、医療ニーズを基準に開業エリアを選べる一方、土地勘や人脈がない状態から患者・スタッフ・医療関係者との信頼関係を築かなければなりません。
本記事では、医師がIターンでクリニックを開業するメリットやリスク、知らない土地での開業を成功させるための地域選びについて解説します。
Iターンとは、出身地とは異なる地域へ移住し、そこで生活や仕事を始めることです。
例えば東京出身の医師が山口県へ移住してクリニックを開院する場合や、これまで生活したことのない地方都市で地域医療を始めるケースなどがIターン開業にあたります。
Uターンのように地元へ戻るわけではないため、地域の人脈や土地勘を前提にはできません。その分、「自分がどこで開業したいか」ではなく「どこで自分の医療が必要とされているか」からエリアを選びやすい点が特徴です。
Iターンでは出身地という条件に縛られないため、診療科や専門性に合った地域を広い範囲から探すことができます。
例えば、自分の専門診療科が少ない地域、高齢化によって今後も一定の需要が期待される地域、病院からの逆紹介ニーズがある地域など、客観的な医療需要から開業候補地を絞り込めることは大きなメリットです。
地域名を先に決めるのではなく、複数の市町を比較して「自分の診療が最も必要とされる場所」を探せます。
地元での開業では、家族の土地や既存の人間関係などが候補地選びに影響する場合があります。
Iターンではそうした条件が比較的少ないため、患者動線や競合状況、物件条件などを優先して場所を決められます。
診療時間や専門外来、在宅医療への対応なども含め、地域ニーズから逆算したクリニックを一から構築しやすいでしょう。
医師数や診療所数が不足している地域へIターンする場合、新たなクリニックの開設そのものが地域の医療提供体制を支えることにつながります。
特に、後継者不在による診療所閉院が懸念される地域や、特定診療科へのアクセスが限られている地域では、新規参入する医師の存在が重要になります。
診療圏の数字が良いからといって、その地域で長期間生活・診療を続けられるとは限りません。
Iターン開業では、「クリニックとして経営できる場所」と「自分や家族が暮らし続けられる場所」の両方を満たすことが重要です。
| 医療・経営面 | 生活面 |
|---|---|
| 診療圏人口 | 住居環境 |
| 競合クリニック | 配偶者の仕事 |
| 基幹病院との距離 | 子どもの学校・保育環境 |
| スタッフ採用環境 | 買い物・交通環境 |
| 将来の医療需要 | 実家への帰省手段 |
開業後に生活環境が合わないことが分かっても、クリニックは簡単には移転できません。事業計画と同じくらい「10年、20年住み続けられる地域か」という視点を持ちましょう。
Iターンした医師は、開業当初から地域住民に知られているわけではありません。
院長の経歴や専門性、どのような疾患を診療できるのかをWebサイトなどで分かりやすく伝えるほか、地域の医療機関や介護事業者との連携を積み重ねていく必要があります。
特に地域密着型の診療所では、広告だけでなく「どのような医師なのか」を地域に理解してもらうことが長期的な集患につながります。
都市部では駅前の立地が有利でも、地方では自家用車で通いやすい郊外型クリニックが選ばれることがあります。
また、市町村の境界と実際の生活圏が一致せず、隣の市にある病院へ日常的に通院する地域もあります。
Iターンでは土地勘がないからこそ、地図上の人口だけを見るのではなく、住民が普段どこへ買い物・通勤・通院しているのかまで現地で確認しましょう。
医師が不足する地域では、看護師や医療事務、リハビリ職などの人材確保も難しい場合があります。
患者需要が十分にあっても、必要なスタッフを採用できなければ想定した診療体制をつくれません。
候補地を比較するときは患者数だけでなく、周辺の医療機関数や求人状況、通勤可能エリアなども確認し、人材を確保できる場所かどうかを調査しましょう。
旅行や短期間の視察だけでは、実際の生活環境を十分に把握できません。
可能であれば開業前に複数回滞在し、平日の通勤時間帯、休日、夜間など時間を変えて地域を確認しましょう。
山口県では、県外に居住して山口県へのUJIターンを検討している人を対象に、県内での生活を体験する「やまぐちお試し暮らし」について案内しています。
Iターン先を決める段階では、こうした制度も活用しながら、候補地域の暮らしを実際に体験することが有効です。
参照元:山口県公式HP|UJIターン・UJIターンの推進の取組(https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/30/14160.html)
まず「どこへ移住するか」ではなく、どのような患者を診療したいのか、どの専門性を生かしたいのかを明確にします。
診療科別施設数や人口、将来人口、競合状況などを比較し、自院の役割が生まれそうな地域を複数候補にします。
候補地を訪れ、交通、買い物、住宅、学校など、診療とは直接関係しない生活環境も確認します。
基幹病院、医師会、開業支援会社などから、紹介・逆紹介の状況や地域で不足している医療機能について情報を集めます。
最終的には、推計患者数だけではなく、家族が定住できるか、スタッフを確保できるかなどを総合的に比較します。
縁のない地域でいきなり開業することに不安がある場合、候補地域の病院などへ一定期間勤務してから独立する方法があります。
勤務期間中に地域特有の患者層や紹介ルート、医療資源を理解できるため、Iターンによる「土地勘のなさ」を補ったうえで開業できます。
山口県では、県内の公的医療機関等を対象に医師の就職を紹介・あっせんする「ドクターバンクやまぐち」が設けられています。
参照元:山口県公式HP|ドクターバンクやまぐち(医師無料職業紹介)(https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/site/ishikakuho/14364.html)
山口県ではUJIターンを「YY!ターン」として推進し、山口・東京・大阪・福岡に移住相談窓口を設けています。
クリニックの経営・開業手続きを専門に支援する制度ではありませんが、住宅や暮らしなど、医療以外の移住情報を収集する窓口として活用できます。
参照元:山口県公式HP|UJIターン・UJIターンの推進の取組(https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/30/14160.html)
山口県では、重点医師偏在対策支援区域において診療所を承継・開業する予定の医師を対象として、一定の要件のもとで施設・設備整備や地域への定着を支援しています。
2026年度の対象には、柳井医療圏、長門医療圏のほか、美祢市全域や萩市全域、岩国市・下関市の一部地域などが含まれています。
Iターン先として医師不足地域を検討する場合は、地域の医療ニーズと自分の診療科が合致するかを確認したうえで支援制度も調査しましょう。
参照元:山口県公式HP|重点医師偏在対策支援区域における診療所の承継・開業支援事業の実施について(https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/45/312220.html)
Iターン開業では、地元の人脈や土地勘がない分、診療科の需要を客観的に比較して開業地域を選べるメリットがあります。
一方、数字上は魅力的な診療圏でも、生活環境が合わなかったり、スタッフを確保できなかったりすれば長期的な経営は難しくなります。
そのため、「患者が来る場所か」だけでなく「自分と家族が地域に定着できる場所か」まで確認することがIターン開業では特に重要です。
候補地域には複数回足を運び、必要に応じて一定期間の勤務やお試し暮らしも行いながら、医療と生活の両面から開業地を選定しましょう。
当メディアでは、診療科目ごとに山口県でおすすめのクリニック開業支援会社を紹介しています。企業選びの参考情報としてご活用ください。
