クリニック開業地の選定で重要な診療圏調査。その意味や推計患者数の算出方法、具体的な手順を解説します。
クリニック開業における診療圏調査とは、候補地に開院した場合、どの程度の範囲から1日に何人の来院患者が見込めるかを推計する市場調査のことです。一般の商業施設における「商圏」にあたる範囲を、医療機関では「診療圏」と呼びます。単に周辺の人口を数えるだけでなく、診療科ごとの受療率や競合となる他院の状況など、定量的なデータをもとに複雑なシミュレーションを行い、より正確な見込み患者数を算出します。
診療圏調査はクリニック開業前に必ず行う必要があります。調査を実施することで、現在から将来にわたる収益性の見込みが明らかになり、その場所での開業が適切かどうかを客観的に判断できるからです。また、金融機関から開業資金の融資を受ける際にも、正確な見込み患者数に基づいた説得力のある事業計画書が不可欠です。推計があいまいな事業計画では、融資の審査を通過することが非常に困難になります。
診療圏調査の主な目的は、開業後に見込める「推計患者数」を算出することです。一般的に、推計患者数は「エリア人口×受療率÷(診療科目別競合医院数+1)」という計算式を用いて求めます。
まず、設定した診療圏内のエリア人口に、厚生労働省が公表している患者調査の受療率を掛け合わせ、その地域においてクリニックを利用する診療科ごとの総患者数を割り出します。次に、その総患者数を、自院を含めた診療圏内の競合クリニック数で割ることで、1クリニックあたりの平均来院患者数を推計します。この数値が大きいほど収益性が高いと判断でき、開業に適した場所であるかどうかの重要な指標となります。
推計患者数を算出する際は、単純な計算数値だけで判断しないよう注意が必要です。医療機関のデータベースが最新ではない場合があり、すでに閉院したクリニックや新たに開業したクリニックが反映されていないことがあります。また、競合クリニックが標榜している診療科目と、実際に行っている診療内容が異なるケースも少なくありません。休診日や医師の専門性、実際の集患力といった実態を把握し、実情に合わせた調整を行うことが重要です。
精度の高い診療圏調査を行うためには、正しい手順を踏むことが不可欠です。以下に具体的な5つのステップを解説します。
まずは開業地の候補を決定です。最初から一つに絞り込むのではなく、ご自身のクリニックのコンセプトに合った候補地を複数挙げた上で比較検討することが、最適な選択につながります。
診療圏を設定します。患者さんがどの範囲から来院するかを予測しましょう。設定方法には、直線距離で同心円を描く方法と、車での到達時間で設定する方法があります。自家用車での移動がメインとなる地域では、両方を組み合わせて生活動線を考慮することが大切です。
競合クリニックの強度を調査します。計算上の競合数だけでなく、実際に現地へ足を運び、競合他院の集患状況を確認しましょう。駐車場の有無や医師の専門医資格、評判など、データには表れないクリニックの集患力を把握することが必要です。
診療圏内の世帯特性を調査します。市区町村の統計情報などを活用し、地域の年齢層や世帯構成を確認しましょう。高齢者が多いのか、ファミリー層が多いのかによって求められる医療ニーズが異なるため、安定した集患が見込めるかを判断する材料となります。
推定患者数を計算します。これまでに集めたデータをもとに計算式を用いて数値を算出しましょう。ただし、数値だけに頼らず、駅からのアクセスや周辺施設の有無など、多角的な視点から総合的に分析して開業地を最終決定します。
診療圏調査を行ううえで、とくに気をつけるべき2つの注意点について解説します。
夜間人口と昼間人口の差は考慮する必要があります。国勢調査などの人口データは居住者を中心とした「夜間人口」が基準となっています。しかし、オフィス街や駅前での開業を検討している場合、日中は通勤者などの「昼間人口」が大きく変動します。獲得したいターゲット層に合わせて、昼間と夜間のどちらの人口データを重視すべきかを見極める必要があります。
人口総数だけでなく世帯属性もしっかりとチェックすることです。同じ人口数でも、地域によって年代や男女比、世帯構成は大きく異なります。ファミリー層が多い地域なら駐車場やキッズスペースの整備、高齢者が多い地域ならバリアフリー化や送迎サービスの導入など、世帯属性を把握することで地域ニーズに直結したクリニック運営が可能になります。
適切な診療圏の広さは、診療科目や患者さんの受診動機によって大きく異なります。
一般内科は体調不良時にすぐに受診したいというニーズが高いため、自宅や勤務先の近くが選ばれやすい傾向にあります。そのため、都市部なら駅から徒歩2〜3分以内、郊外なら車で10分以内の狭い範囲を診療圏として設定するのが基本です。
耳鼻科や精神科の場合、特定の疾患に対する継続的な治療が目的となるため、すぐに行ける距離である必要性は比較的低くなります。都市部であれば半径1km以内、郊外であれば半径2km〜4km程度と、やや広い範囲で診療圏を設定します。
産婦人科(婦人科を含む)、泌尿器科、美容皮膚科などは、来院頻度が比較的低く、専門性を求めて遠方から通院する患者さんも多いため、さらに広い診療圏の設定が可能です。都市部の急行停車駅なら徒歩3分前後が目安となりますが、クリニックの診療方針に合わせて柔軟に調整することが大切です。
現在では、専用のアプリやWebサービスを利用することで、ご自身で簡易的な診療圏調査を行うことが可能です。しかし、データのみに依存した調査となるため、専門の会社が実施する詳細な現地調査や分析に比べると、精度が悪くなる場合も考えられます。クリニック開業支援コンサルタントは、精度の高い診療圏調査はもちろんのこと、開業後の集患戦略や資金調達支援などのサポートも提供しています。手厚い支援を受けたい場合は、専門のコンサルタントへのご相談もおすすめです。
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